メールマガジン 【西方見聞録】 


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■メールマガジンのタイトル: 【西方見聞録】

■発行周期: 週1〜2回

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■配信形式: テキスト形式

■このメールマガジンの目的

バンコクからカイロまでにいたるいわゆる西南アジア、イスラム圏。
政治的な情報ばかりで庶民の生活や楽しみは一体何であろうか。
観光の日記ではなく、現地に滞在して見聞したことを伝えたい。


■このメールマガジンのサンプル

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       ◇◇◇◇トニー高橋の西方見聞録◇◇◇
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【Apr 02,2002】 Vol.26 発行部数 693部
メルマガへのご意見は User298624942@aol.com までお気軽にどうぞ(^v^)
――――――――――  ナイフマリンに乗って ――――――――――――

                ◇

実は「この国へルポ出来ますか」と頼まれたのは出発の2日前。それがイラクだなんて
誰も想像できない。瞬発力だけは誰にも劣らないが、どのような交通手段があるのか。
航空便もないビザ取得も難しい今日、途方に暮れたまま、とりあえず、手探りでドバイ
へ降りた。

                  ☆彡

何もアイデアないまま、アラブ首長国連邦ドバイへ着く。着いてすぐに活動開始するが
イラクインフォもなければ大使館もない。「止めた方が良いんじゃないの」と日本人駐
在員は警告する。とりあえず、旅行代理店を当たり始める。大半がインド・パキスタン
人で占めるここで何も打つ手はないだろうと思いきや、なんと、イラク行きの船が出て
いることを知らせられる。

                ☆彡

道祖神ドバイ店のエージェントであるアリが「交通がないなんてとんでもない。ウムカ
スル(イラク)行きの船は水曜日と土曜日にバーレーン経由で出ているよ。日本国籍な
らビザは到着地で取れるよ」とあっけなく告げられる。しかし、イラクビザは通常、大
使館やアンマンで取得すると聞いていたので信憑性が今一つ定かではない。それなら乗
船券のホールセールをしているナイフマリン社へ問い合わせてみたらというアドバイス
で、詳しく尋ねると、シーア派の聖地カルバラへ向かう信者がイラクへ向かうためにビ ザは現地で取れると説得される。

                ☆彡

結局、イラクビザには問題なさそうなのではと確認し、半信半疑でドバイポートラシー
ドへ足を運ぶ。
貨物ターミナルばかりで旅客などどこにいるのであろうと思いきや、ターミナルビルに
入れば、イラク人と巡礼者ばかりでごった返している。別れが悲しいのか、抱き合いな
がら泣きじゃくる親子を体で押しよけながら、チェックカウンターへ向かう。荷物預け
は、人間の体重の計りが置かれている。一人当たり100キロまで荷物がチェックイン
できるためにこの時こそとばかり大型カラーテレビや冷蔵庫などそれはまるで電気屋の
倉庫で棚上げしているような光景が目に入る。

                ☆彡

しかし、経済的に陥られているどころか国連制裁もされている国でこんな家電など持ち
込んでも臨検や税関で引っかかるのではと首をひねるが、それは乗船してから驚かされ
る光景に出くわす。

仮設されたチェックカウンターには自分を「外国人扱い」なのか「敵対国人扱い」なの
か分からないが、自分のパスポートと乗船券だけ別に回され、「ハムサミヌッツ:5分
待て」とアラビア語で指示されるが、一体何なのであろうか。何か言えば「インシャー
ラ」と返される。この時は時間にまかせるしかない。「ミスター日本人、イラクへはビ
ジネス?それともプレジャー?」と質問を受ける。二者択一を迫られたなら「プレジャ
ー」と答えざるを得ない。変わり者扱いされたのか笑われながら手書きの乗船券を手渡
される。

                ☆彡

アメリカンスクールバスもどきの車に乗せられ船に向かう。「あんたもカルバラへ行く
のかい?一生に一度の機会だからねえ」とインド国籍で巡礼の旅に出ているザキエーさ
んは祖母とひ孫も含め12人の家族を連れて胸をわくわくさせながら語る。聖地カルバ
ラとナジャフはサウジのメッカやメディナと同じくらいイスラム教徒にとって重要な礼
拝場所らしく、日本のお伊勢参りのような感覚で、はるばる遠くから家財道具を売り払 ってもお参りに行くそうだ。

                ☆彡

乗船が始まる。バスから降りるとタラップに乗り、レセプションでサインする。船室は
1等と2等に分けられ、家族、イラク国籍、アラビア語を話せる者、女性団体客、巡礼
者、外国人と振り分けられる。当然のことながら自分以外はアラビア語を話す人間かイ
スラム教徒しかいない。パスポートと英語を披露すればものめずらしげに見られ、鍵を
手渡されるが、自分は異教徒で誰も同じグループの人がいない。旅の友も作れると期待
していたがどうやら無理そうだ。

                ☆彡

船は、ドバイの摩天楼を背に、海上油田の灯火を横目に流しながら、ペルシャ湾を北上
する。深夜であろうと昼間であろうと、遠雷のごとく、西側の戦闘機が監視しながら通
り過ぎる。戦闘機を見ながら、追い返そうとする乗客達。ここでの戦争は未だ終わって
いない。

                ☆彡

「俺達は密輸も人殺しもやっていないよ」とイラク商人のサイーフさんは言う。イラク
人と自分が伝えるだけで、殺戮凶器やテロリスト扱いされては商売にならないと愚痴を
こぼす。バグダッドに店を構えると卸問屋の並ぶドバイをもう7年以上絶えず往復して
雑貨や食料を仕入れていると彼は語るが、そんなに簡単に品物を流通することが出来る
のであろうかと疑問が残る。

                ☆彡

「そんなの簡単さあ。荷物なら、わしが運ぶよ」と肩を叩くのは、退職してドバイで働
く息子に会うためにバグダッドとドバイを往来するメジャミン爺さんだ。彼はバグダッ
ドのエージェントへ連絡して荷物を運ぶ代わりに乗船券を安くしてもらうといういわゆ
る「担ぎ屋」になっているらしい。「何も収入がないからこのようなサービスはとても
有り難い」とホクホク顔。

                ☆彡

しかし、国連制裁を食らい何も取り引きも海外送金も太刀打ちできない状態のイラクが
なぜそこまで経済的な底力を持っているのか。その背景には何があるのか。

作業員に案内されて船底に眠る貨物をみようと階段を降りる。するとチェックイン時に
預けた荷物どころか、アルミニウム塊、OA機具、タイヤ、そして中古の日本車までも
ぎっしり詰められていた。「イラクはリッチだよ、だってこんなに買い物が出来るじゃ
ないか」と作業員は疑い気に語る。

                ☆彡

2泊3日の船旅の毎日は全く今までのイラクに対するイメージをぶち壊される事ばかり
だ。イラク国内の話を聞いてみると平穏で誰も飢えていないと意外な答えを受ける。そ
れどころか米ドルキャッシュを持ち運び酒を飲み干す彼らは本当にイラク人なのかそれ
とも偽者なのか。

「百聞は一見にしかずだけれど、かなり報道とはずれた現実を見られるよ」とインド人
でバグダッドへ出張するサイードさんはイラクの現実に冷静だ。2ヶ月に1度の割合で
バグダッドへ向かう彼は、現地での物の豊富さと西側には知られていないビジネスイン
フラが出来上がっているそうだ。「プロパガンダに振り回されていては何も出来ないよ」
とかなりやり手の姿勢だ。

                ☆彡

ペルシャ湾は外海と違い波もなく静かだ。浅瀬が多いのか、干潮時に現れる無数の無人
島が点在する。昼間はイルカの大群に囲まれたり巨大石油タンカーとのすれ違いに圧倒
されたりし、夜になると監視活動する戦闘機の爆音と窓に注ぐ海上油田の灯火に睡眠を
邪魔される。

                ☆彡

クウェートの沖合い、ホールアブドーラと呼ばれる浅瀬に近づくとイランイラク戦争時
代に犠牲になった石油タンカーの残骸やヘリコプターの一部が墓場のごとく散らばって
いる。

「昔は激戦地も今では渡り鳥の住処に様変わり」と乗客はバードウォッチングに夢中だ。
2人乗りのボートで網を張って釣りを楽しむ地元の人、田んぼで稲作をする農民、イラ
クを挑発するさびたプロパガンダ看板。砂漠と戦争の傷跡を眺めていると、有刺鉄線が
張り巡らされ、土手やトーチカが見え始める。そしてUNIKOMと屋根に書かれた国
連の小屋が現れる。しっかり国連PKO隊員が監視塔から双眼鏡で船を監視している。

                ☆彡

ここは今でもなおイラククウェート最前線なのだ。10年前、ここでイラクが侵攻した
ところとは全く想像が付かない。

遊牧民が羊を連れまわす姿を見かけるとイラクの国旗が背後にちらつかす。いままでに
こやかだった乗客の表情が一気に堅くなり、口数も減り、そわそわ落ち着きない行動を
始める。何も知らないのかという目線で刺され、一体これからイラクに入るために何が
起きるのであろうか。

船はイラクのウムカスル港に静かに入る。

                ◇



■運営者:トニー高橋  User298624942@aol.com


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